本展は、島根県浜田市出身の日本画家・石本正(いしもと しょう/1920-2015)の功績を顕彰し、未来への希望に満ちた学生の創作活動を奨励するものです。長きにわたる画業の中で後進の育成にも心を注ぎ、多くの画家を画壇へ送り出してきた石本は「学生の作品には欲が無く気力がある。作家と対象との心の交流があり、見る者に訴えかけてくる」と語り、若い力が生み出す純粋性を愛していました。
石本正 日本画大賞展では、全国で日本画を修める大学に推薦を依頼し、石本の画心を受け継ぐ審査員の方々より、優秀な作品に賞を与えて奨学します。2011年美術大学選抜日本画展から石本正日本画大賞展と名称を変えながら、今年で13回目の開催となります。また、例年ご好評いただいている交流会についても行う予定です。本年も心あるすばらしい作品が出品されることを願っています。
(敬称略)
土屋 禮一
かって土屋さんはよく水面を描かれますが、何故ですかと聞かれたことがあります。父を亡くした16歳の若き日、母や親戚が葬儀の準備等で忙しくしている中、これからの土屋家はどうなるんだろうと、庭の池の水面をただただ眺めていたことを思い出します。子供なりにあの日の切実感が水面を見ると蘇ります。
絵を描くとき、こう描きたかった表現したかったという根拠に深く気がつくことです。それが自分に出会うという重要なことなのです。風で草が揺れるのを見て弱さを感じた日もあれば、状況が同じなのに強さを感じた日もあります。自分の奥底の気持ちに向き合って、描き現す創造の世界に突き進んで行ってください。
(金沢美術工芸大学名誉教授)
奥村 美佳
カルトンを抱えて暗くなるまで歩きまわり、対象を探す日々。描きたいものが見つからず、うなだれて帰る日もあれば、夢中で写生するうちに、自分が目と手だけになったような気になる日もありました。深刻でいつも不安だった学生の私にとって、写生は発見と感動の宝庫、あらゆる不安から解放されて、純粋に描くことに浸れる時間でした。
石本正日本画大賞展に出品される皆さんの作品を拝見し、画学生だった頃の気持が蘇り、胸が熱くなります。行く先の見えない不安をたくさん抱えながらも、真剣に画面に向き合い、全身で受け止めた感動を吐露した作品には、技術を超えた力強さと美しさを感じます。
(京都市立芸術大学准教授)
西久松 吉雄
“気になる作品”とは、興味がある、心ひかれる、魅力を感じる、惹きつけられるなど、作品と対峙した時に魅力的な何かに関心が向いたときです。
それは、描かれた対象やテーマに対して好奇心や関心を持っている状態、新たな表現や体験に伴う作画動機の感性が表出された作品と出会った瞬間です。
日々の暮らしの中で、自身の心への問いかけを繰り返しながら熱意を持って作品に向き合って描き、楽しくそして果敢に、表現の追求を続けている気になる作品に出会うことを楽しみにしています。
(成安造形大学名誉教授・浜田市立石正美術館館長)
出品作品の中から厳正な審査の上、次の通り受賞作品を決定します。(大賞・準大賞作品は浜田市立石正美術館に収蔵されます)
■大賞…1点(副賞)奨学金30万円
■準大賞…2点(副賞)奨学金20万円
■特別賞 日本海信用金庫 理事長賞…1点(副賞)奨学金10万円
■特別賞 浜田芸術文化のまちづくり推進協会賞…1点(副賞)奨学金10万円
■奨励賞…5点(副賞)奨学金 5万円
◎あわせて、受賞者全員に浜田市三隅町の伝統工芸品『石州和紙』(50号サイズ一枚)を進呈します。
(年度) | (展覧会名) | |
2011年 | 「美術大学選抜日本画展」 | (通算1回) |
2012年 | 「全国美術大学奨学日本画展」 | (通算2回) |
2013年 | 「全国美術大学奨学日本画展」 | (通算3回) |
2014年 | 「全国美術大学奨学日本画展」 | (通算4回) |
2015年 | 「第1回 石本正 日本画大賞展」 | (通算5回) |
2016年 | 「第2回 石本正 日本画大賞展」 | (通算6回) |
2017年 | 「第3回 石本正 日本画大賞展」 | (通算7回) |
2018年 | 「第4回 石本正 日本画大賞展」 | (通算8回) |
2019年 | 「第5回 石本正 日本画大賞展」 | (通算9回) |
2020年 | ※ 新型コロナウィルス感染症の影響で開催中止 | |
2021年 |
「第6回 石本正 日本画大賞展」 | (通算10回) |
2022年 |
「第7回 石本正 日本画大賞展」 | (通算11回) |
2023年 |
「第8回 石本正日本画大賞展」 | (通算12回) |
2024年 |
「第9回 石本正日本画大賞展」 | (通算13回) |
<成り立ち> 2011年、島根県西部・石見地方から全国に向けて芸術文化を発信する「碧い石見の芸術祭」(主催 芸術と文化のまちづくり事業実行委員会)がスタート。年間を通して様々なアートイベントを企画する中で、全国の美術大学で日本画を学ぶ学生を奨励する展覧会として開催。 |
<展覧会名改称について> 2011年の開催当初から、石本正先生は自分の名前を公募展に冠することを固辞してこられました。しかし、先生の「絵に対する心」を柱とした展覧会であることから何度も重ねてお願いし、ようやく「第1回 石本正 日本画大賞展」として開催が決まっていた矢先のこと。2015年9月に石本先生が急逝されました。“若い力あふれる学生の作品を見たい”と念願されていた先生に、作品を見ていただくことも、直接ご指導いただくことも叶わなくなりましたが、その精神を受け継ぐ審査員の先生方をはじめ、多くの方々のご協力を得ながら、「石本正 日本画大賞展」として新たなスタートを切ることとなりました。 |